No.06「空路 1987-B」、「空路 1988-B」

ある美術関係者から聞いた話ですが、現代でも版画といえば、まだまだタブロー(本画)の複製画として軽んじる傾向が根強いのだそうです。たしかに高価で入手しにくいタブローの代わりに、同じような絵柄の比較的安価な複製版画が世間で広く受け入れられてきました。しかし、そのことが逆に「版画はオリジナルではない」などの、とんでもない誤解や偏見を助長したのではないかというわけです。なぜ誤解や偏見と言い切れるかといえば、現代の版画にあっては、タブローの複製画とはまるでちがう独創的な表現が次々と生まれているからにほかなりません。


その中でも鉛箔を駆使した清塚の銅版画ほど、鮮烈な衝撃を与えたものもなかったでしょう。すでに1970年代末期に彼女は鉛箔を画面に取り入れていましたが、それが特異なトレードマークとなるほどに爆発的な展開を遂げたのは、1980年代中頃からでした。銀色の光沢をたたえた鉛の硬質な肌合いといい、純化された大胆極まる抽象的な構成といい、それまでの人物像などが織り成す幻想的イメージに親しんでいた清塚ファンも、さぞや目を丸くしたのではないしょうか。


けれども鉛箔の導入は、たんなる常識破りには終わらない新鮮な感動を呼び起こしました。東葛クリニック病院1階にある「空路 1987-B」と「空路 1988-B」の2点も、文句なしの傑作です。鮮やかな青の領域と銀色光をたたえた鉛箔の領域が組み合わさって、視界がさあっと切り開かれるような心地。それは飛行機の窓から眺めた青空と、ジュラルミンの機翼の残像がつむぎ出した風景なのかもしれません。画面構成は見事に決まっていますし、秋葉原で買い集めた部品類をハンダ付けして、リズミカルな変化やメリハリを与えた発想とセンスにも感嘆させられます。


作品解説:
美術ジャーナリスト三田 晴夫