東葛クリニック病院のヒーリング・アートについてⅠ

東葛クリニック病院のヒーリング・アートは、私がかかわるようになってからすでに30年以上になります。


当時の鈴木 満院長が米国の医療機関と交流があり、すでに米国で始まっていた「医療施設にアートを導入する」試みを、東葛クリニック病院でもできないかと相談を受けたのが始まりでした。鈴木院長はアートによって「患者さんの重く沈みがちな気持ちを明るくし、回復を手助けする」ことを願っていたのです。


そこで早速、作品の選定に入りました。病院を訪れたことのある方はすでにお気づきのように、院内に展示されている作品は主に明るい印象をもつ抽象作品で構成されています。


なぜ、抽象的な作品が多いかといいますと、病院に来られる方は子どもから大人、サラリーマンから個人経営の方、都市部にお住まいの方から地方在住の方まで、実にさまざまです。世代も価値観も文化的な背景もそれぞれ大きく異なります。あまりにも具象性が強いアートですと、見方や感じ方が固定される傾向があります。そこで東葛クリニック病院では、多様な人たち、またその人の置かれた状況によってさまざまな感じ方や見方、受け取り方ができるようにと、抽象的な表現の作品を多く展示しています。作品の質の面でも、なるべく多様性を維持するように、新進作家から中堅として活躍中の方まで、現在では100点を越える作品群が収蔵展示されています。


「病」という、人生にとって大きなテーマ抱えた患者さんに対し、適切な治療とともに、心の面でも解決の一助になればと、アートを加えた癒しの環境づくりを目指しています。


アートには、ただ美しい色や形ばかりでなく、さまざまなメッセージが込められています。見方によって心がなごんだり、明るい未来を感じたり、心地よい印象を受けたり、あるいは元気が出てくるような、そんな作品を選ぶように心がけています。


ときどき本院と関連透析施設の間で展示替えを行っていますが、全体として多彩なヒーリング・アートの空間となっています。


こうしたアートによってぜひ、明日に向けた心地よい活力を得ていただけたらと思います。

彫刻家望月 菊麿
望月 菊麿(もちづき きくま) 略歴

1945年福岡市生まれの彫刻家。東京芸大工芸科鍛金科卒。同大学院修了後は照明デザインのかたわら、鍛金技術を生かして真鍮や鉄などを素材にした造形とも取り組む。真鍮板を両側から機械で引っ張って変形させたシリーズや、真鍮板の表面を加熱しながらたたいて微細なシワを作り出したシリーズがことに有名。1975年の現代日本美術展、1982年の日本国際美術展でいずれも佳作賞を受賞。山口県宇部市の名高い野外彫刻展である現代日本彫刻展にも出品してきたが、1979年に金属から一転、バルーン彫刻を発表して話題を呼んだことも。以後は金属に戻って制作を続け、公共空間のモニュメントも数多く手がける。